ローマ字のつづり方: 翻字ヘボン式

(2023-11-16) (現カナ)

 本方式は訓令定義内*1ヘボン式に基づき、かつ現代仮名遣い*2との翻字を目的とするものである。

訓令定義

a i u e o
ka ki ku ke ko kya kyu kyo
ga gi gu ge go gya gyu gyo
sa shi su se so sha shu sho
za ji zu ze zo ja ju jo
ta chi tsu te to cha chu cho
da de do
na ni nu ne no nya nyu nyo
ha hi fu he ho hya hyu hyo
ba bi bu be bo bya byu byo
pa pi pu pe po pya pyu pyo
ma mi mu me mo mya myu myo
ya yu yo
ra ri ru re ro rya ryu ryo
wa
  • 下線のつづりは訓令第2表、他は訓令第1表

翻字定義

`a `i `u `e `o `ya `yu `yo `wa
dji dzu dja dju djo kwa
wi vu we wo gwa
n' q' h'

 現代仮名遣いとの翻字のためには、訓令定義だけでは足りないものがあるので、それらを翻字定義として加える。

小書きの仮名
 小書きの仮名は「`」を前に置く。例えば「ォ」は「`o」とつづる。通常、「クォ」のように他の仮名の後ろに置き「ku`o」とつづる。この場合、前の英字と組み合わせて「kùo」とつづってもよい。「`」を使えない環境では、「x」を代わりに使い、「kuxo」とつづる。
 なお「クォ」を「kwo」とつづるような特殊音拡張*3はここでは扱わない。

四つ仮名
 「チ」「ヅ」「ヂャ」「ヂュ」「ヂョ」は、それぞれ「dji」「dzu」「dja」「dju」「djo」とつづる。「dzu」の出展は和英語林集成初版*4であり、「dj」は「dz」からの類推である。

歴史的仮名遣
 「クヮ」「グヮ」「ヰ」「ヱ」「ヲ」は、ぞれぞれ「kwa」「gwa」「wi」「we」「wo」とつづる。それぞれの出展は、「kwa」「gwa」「wo」は訓令第2表であり、「wi」「we」は日本式*5である。

外来音「ヴ」
 「ヴ」を耳で聞き分け、口で言い分けられるかによらず、「vu」とつづる。

撥音「ン」
 撥音「ン」は「n'」とつづる。後続の英字と並べて、混乱がない場合には「'」を省ける。例えば「アンイ(安易)」は「an'i」とつづるが、「'」を省くと「ani」になり、「アニ(兄)」と混乱が生じるので、このような場合は省けない。「'」を省けず、「'」を使えない環境では、「q」を代わりに使い、「anqi」のようにつづる。この代替つづりは後で述べる促音「q'」、長音符号「h'」でも同様である。

促音「ッ」
 促音「ッ」は「q'」とつづる。後続の英字と並べて、混乱がない場合には「'」を省ける。「Q」の出展は新日本式*6である。
 訓令定義に従い、後続の英字を重ねて「イッコ(一個)」を「ikko」とつづってもよい。ヘボン式の場合「ch」の前では「t」を使う。例えば「イッチ(一致)」は「itchi」とつづる。後続の英字がない語末や形態素末の促音は「q'」を使う。例えば「アッ」「イッ-コ(一個)」はそれぞれ「aq」「iq-ko」とつづる。

長音符号「ー」
 長音符号「ー」は「h'」とつづる。後続の英字と並べて、混乱がない場合には「'」を省ける。「H」の出展はパスポート*7で例外的に長音を表すときのつづりである。
 この方式では長音符号を使うとき以外は長音とみなさない。例えば、「オウイ(王位)」「オオイ(多い)」「オーイ(おーい)」は訓令式ではすべて「ôi」になるが、これでは元の仮名遣いに戻せず、翻字の目的を果たせないので、それぞれ仮名遣いに合わせて「oui」「ooi」「oh'i」とつづり分ける。

仮名  意味 訓令式 翻字ヘボン式
オウイ 王位 ôi oui
オオイ 多い ôi ooi
オーイ おーい ôi oh'i

翻字例

  • 漢字: 焼津市本町一丁目
  • 仮名: やいづし ほんまち いっちょうめ
  • 訓令式: Yaizu-si Honmati ittyôme
  • ヘボン式: Yaizu-shi Hommachi itchōme
  • 翻字ヘボン式: Yaidzu-shi Honmachi itchoume

備考
 助詞「は」「へ」の翻字、単独の濁点「゛」、半濁点「゜」の翻字を決めるには、さらなる議論が必要で、この方式では今後の課題としている。現状では助詞「は」「へ」は読み優先で「wa」「e」とつづるのが主流である。なお、助詞「を」は歴史的仮名遣いの翻字に準じて「wo」とつづる。
 翻字ヘボン式とNQH式*8の定義は同じである。

ローマ字の外来音拡張を分類

(2023-09-06) (現カナ)

 内閣訓令の『外来語の表記*1』に現れる外来音に対して、どのような拡張が行われているかまとめてみる。43個が定められ、それぞれ行ごとに並べると次のようになる。

  • イェ、ウィ、ウェ、ウォ
  • ヴ、ヴァ、ヴィ、ヴェ、ヴォ、ヴュ、ヴョ
  • キェ、クァ、クィ、クェ、クォ
  • グァ、グィ、グェ、グォ
  • シェ、スィ
  • ジェ、ズィ
  • チェ、ツァ、ツィ、ツェ、ツォ、ティ、テュ、トゥ
  • ディ、デュ、ドゥ
  • ニェ
  • ヒェ、ファ、フィ、フェ、フォ、フュ、フョ

(1) 基本規則

 外来音を表すための基本規則は、開拗音(イ段に小書きのヤ行)には「y」を間に挟み、合拗音(ウ段に小書きのワア行)には「w」を間に挟む形になる。ヘボン式では、一部「sh, j, ch, ts, f」に母音字を続ける形で表すこともある。

(2) 開拗音

イェ キェ シェ ジェ チェ ニェ ヒェ
日本式 ye kye sye zye tye nye hye
訓令式
ヘボン she je che

 外来音に現れるのは小書きの「ェ」のみである。子音字に「ye」を続ける形で表す。ヘボン式のみ「sh, j, ch」に「e」を続ける形で表す場合がある。

(3) 合拗音

クィ クェ クォ グィ グェ グォ
日本式 kwi kwe kwo gwi gwe gwo
訓令式
ヘボン

 すべての方式で「kw, gw」に母音字を続ける形で表す。

ツァ ツィ ツェ ツォ
日本式 twa twi twe two
訓令式
ヘボン tsa tsi tse tso

 日本式と訓令式は「tw」に母音字を続ける形で表し、ヘボン式は「ts」に母音字を続ける形で表す。

ファ フィ フェ フォ フュ フョ
日本式 hwa hwi hwe hwo hwyu hwyo
訓令式
ヘボン fa fi fe fo fyu fyo

 日本式と訓令式は「hw」に母音字を続ける形で表し、ヘボン式は「f」に母音字を続ける形で表す。なお、日本式と訓令式では、「フュ、フョ」に「hwy」を使い、半母音字が複数並ぶ形になる。

ウィ ウェ ウォ クァ グァ スィ ズィ
日本式 クヮ グヮ swi zwi
訓令式 wi we (wo) (kwa) (gwa)
ヘボン (si) (zi)

 形式的には合拗音で表すことができるが、日本式では歴史的仮名遣いで使われる仮名「ヰ、ヱ、ヲ、クヮ、グヮ」と同じ形を持つものが現れる。この制約を外せば、すべての方式で「wi, we, wo, kwa, gwa」を使うことができる。また、「スィ、ズィ」をすべての方式で合拗音の形「swi, zwi」で表しても問題ないのだが、ヘボン式では「si, zi」を使うこともできる。ただし、この形は訓令式では「シ、ジ」に使われるので、慎重に扱う必要がある。
 なお、キーボードのローマ字入力*2では、「whi(ウィ)、whe(ウェ)、who(ウォ)」、「wyi(ヰ)、wye(ヱ)、wo(ヲ)」のように当てはめることで、双方の混同を避けている。「wi, we」は、必要に応じて「ウィ、ウェ」と「ヰ、ヱ」を切り替える。

(4) その他の拗音

ティ テュ トゥ ディ デュ ドゥ
日本式 t'i t'yu t'u d'i d'yu d'u
訓令式 (di) (dyu) (du)
ヘボン (ti) (tyu) (tu)

 外来音には、開拗音、合拗音で表せない拗音がある。仮にエ段拗音、オ段拗音と呼ぶ。日本式では「チ、チュ、ツ、ヂ、ヂュ、ヅ」と異なる読みにするために、子音字の後ろに「'」を添えることがある。訓令式も同様だが、訓令式では「ヂ、ヂュ、ヅ」を「zi, zyu, zu」で表すので、「di, dyu, du」を外来音のために使うことができる。さらにヘボン式では「ti, tyu, tu」も外来音に使えるが、訓令式の「チ、チュ、ツ」と同じ形なので、慎重に扱う必要がある。
 なお、キーボードのローマ字入力では、「thi(ティ)、thu(テュ)、 twu(トゥ)、dhi(ディ)、dhu(デュ)、dwu(ドゥ)」のように当てはめることで、双方の混同を避けている。
 一部のローマ字流派では、エ段拗音に半母音字「j」を、オ段拗音に半母音字「v」を定めて、「tji(ティ)、tju(テュ)、 tvu(トゥ)、dji(ディ)、dju(デュ)、dvu(ドゥ)」と表す提案が行われている。他の事例では、99式*3で、合拗音用の「tw, dw, hw」をそれぞれトァ行、ドァ行、ホァ行に使うことで「twu(トゥ)、dwu(ドゥ)」と表し、本来の合拗音、ツァ行とファ行にそれぞれ「ts, f」を当てはめている。

(5) 新規音素

ヴァ ヴィ ヴェ ヴォ ヴュ ヴョ
日本式 vu va vi ve vo vyu vyo
訓令式
ヘボン

 日本語話者が「v」を音素として「b」と話し分け、聞き分けられるかの議論は脇に置き、ローマ字で表すのであれば「v」を使うことになる。これはどの方式でも同じである。「v」の存在を認めず、「b」に置き換えるローマ字流派もある。

「Tokyo」のつづりこそローマ字最大の英語従属精神では?

(2023/06/02) (現カナ)

 ツイッター社が一か月ログインしないアカウントは消すという真偽不明の情報が流れて以来、ツイッターの更新をまた始めました。雑誌記事の要約をローマ字にして書くにはツイッターの制限長はちょうど良く、ローマ字ブログよりは長続きしそうです。また、読む方も280文字はちょうど良い長さです。
 さて、ログインのついでに、ローマ字関係の話題をツイッター内で探すのですが、相変わらず、関心事は「訓令式」VS「ヘボン式」で、しかも漢字仮名交じり文で議論するという明治以来何も変わっていない状況です。
 良く言われるのが、ヘボン式は英語従属精神の現れであるということです。確かに間違っていないのですが、私の考えでは、「Tokyo」というつづりを受け入れる精神こそ、最大の英語従属精神です。訓令式の「Huzi」もヘボン式の「Fuji」も「フジ」であることに変わりなく、日本語は壊されていません。ところが、「Tokyo」は普通に読めば「トキョ」です。英語では「o」には「オ」と「オー」の両方の読み方があるから、日本人は、「Tokyo」を見て「トキョ」「トーキョ」「トキョー」「トーキョー」の選択肢から「トーキョー」を選ぶことを無理強いされているわけです。これこそ日本語を壊しています。
 それに対して、「Tokyo」は正式には「Tôkyô」か「Tōkyō」なのだから、問題がないと、「漢字仮名交じり文」で反論が来ますが、あまり説得力がありません。ローマ字で「ô」や「ō」をタイプするのがどれだけ大変なことか、好事家が個人的に入力方法をカスタマイズすれば済むわけでなく、初心者がどこでも簡単にタイプできるようにならなければ意味がありません。それ以前に「ô」や「ō」はパスポートで使えないという現実の前では、今までの苦労が吹き飛んでしまいます。
 となると、「Tôkyô」は「Tookyoo」か「Toukyou」とつづるべきで、どちらが良いかというと、現代仮名遣いと一対一の対応関係にある「Toukyou」のほうでしょう。今更、ローマ字と仮名遣いで二重規範になるのは教育コストの無駄です。これを言い出すと「ou」はフランス語では「ウー」になるから避けるべきと反論が来ますが、それを言い出したら「oo」のほうこそ英語で「ウー」になります。「ou」だけに目くじらを立てるのは、当事者も気づいていない別のコンプレックスがあるのは知っていますが、深追いはしますまい。
 子供の絵本は、現代仮名遣いの平仮名で書かれています。日本人は、平仮名だけでも文章を読み取る教育を受けています。ローマ字のつづりは現代仮名遣いをそのまま置き換えるだけで十分です。「ô」や「ō」を正しく使いこなすには、新しく長音の教育が必要になり、しかもアメリカ人から無神経にも「^」等は取り除かれてしまいます。これが「ou」であれば、いかに無神経なアメリカ人でも「u」を取り除くことはしないでしょう。

国語課題小委員会(第55回)(令和4年12月23日)

(2023-01-10) (正カナ)

 『小学校国語科におけるローマ字学習について』

 子供にとって一番有用なのはローマ字入力。自づと日本式が優先され、長音用の字上符を入力する場はない。

国語課題小委員会(第54回)(令和4年10月21日) - 配布資料 - 2

(2022-11-26) (正カナ)

 『「国語に関する世論調査」におけるローマ字表記についての調査結果』について、長音をローマ字でどのやうにつづるのか時系列で意識調査が行はれてゐた。実回答のおける割合と、有効回答における割回をまとめてみる。

神戸(こうべ)
実回答に対する割合→有効回答に対する割合

平12 平22 令2 平12 平22 令2
Kôbe 18.8 8.0 7.5 21.6 8.7 7.6
Kōbe 40.1 56.9 55.2 46.1 61.8 55.8
Kobe 14.2 10.8 13.6 16.3 11.7 13.7
Koobe 2.0 1.5 1.5 2.3 1.6 1.5
Koube 9.6 11.6 18.9 11.0 12.6 19.1
Kohbe 2.3 3.3 2.3 2.6 3.6 2.3

大阪(おおさか)
実回答に対する割合→有効回答に対する割合

平12 平22 令2 平12 平22 令2
Ôsaka 14.9 8.4 7.7 17.1 9.1 7.8
Ōsaka 38.0 53.0 54.9 43.7 57.5 55.5
Osaka 23.3 19.6 21.0 26.8 21.3 21.2
Oosaka 7.3 6.7 11.6 8.4 7.3 11.7
Ohsaka 3.5 4.4 3.8 4.0 4.8 3.8

 長音を「ô」「ō」「o」で表す場合、「ō」が勢力を増し、「ô」が急速に衰へ、「o」が徐々に衰へてゐる状況だ。「oh」はパスポートで認められ一時期勢力を増したが、「h」の後ろに「a, e, h, i, o, u, y」が来た時の規則も決まってをらず、逆に衰へ始めてゐる。最も勢力を伸ばしてゐるのが、仮名に従ふ「ou」や「oo」のつづりである。
 いくら「ō」の方が正しいと知ってゐても、パスポートでは「o」と表すべきと知ってゐても、仮名に従ふ方法が最も混乱なくつづれることから安心感があるのだらう。