世界言語

 プログ『日本語への旅』に以下のPDF文書へのリンクがある。

英語が実質的に国際共通語になったのは、イギリス次いでアメリカという英語を母語とする国が世界の覇権を握ったからだ、という通俗的な答えがある。

 通俗ではなく通説かつ事実だ。

たとえば、地球人の言葉を学びたい、という殊勝な心がけを持った宇宙人がやってきたとする。そして、かれの前に日本語と英語が提示されたとする。もちろんかれはまだ地球における両語の使用人口など予備知識は何も知らされていない。さて、かの宇宙人はこれから学習する言葉としてどちらを選択するだろうか?私はきわめて高い確率で英語を選ぶのではないかと思う。語彙、文法、敬語、発音のこともあるが、おそらく文字、表記システムがかれの選択の決め手になる。(改行は適所修正)

 私だったらスペイン語を選ぶ。母音で終はる(開音節の)単語が多いし、異なり母音数も少ない。発音が難しい子音群も少ない。英語と違ひ、スペルと発音には一定の法則性があるし(同様に、正仮名遣ひも一定の法則性があるし)、第一、あのアメリカ英語の巻き舌訛り大嫌ひだ。その私が苦労して仕事でアメリカ英語を使ってゐるのは、一重にビジネスの分野においても、アメリカ流帝国主義を押し付けられてゐるからだ。その制約がなく、自由に外国語を選べるのなら、英語なんて腐った言語は選ばずに、スペイン語スワヒリ語を選ぶ。

そんなおもしろい表記法をもった日本語が「亡びる」のは、あの栄光あるフランス語が「亡びる」よりも、人類にとってよほど大きな損失である。(P.308)

 をかしい。著者は漢字仮名交じり文を評価してゐるのに、書評を書いた人は漢字否定派だ。どこに共感したのであらう。『日本語が亡びる』といふ情感に共感したのなら、論理とは違ふ次元の書評になる。

さらに、水村さんは英語への一極化が学問外の領域へと広がらない理由はどこにもない、と言っている。そして、事実英語で書く流れはその方向に進みつつある。

 この意味なら、フランス語でも条件は同じだし、特に、日本語だけが危機に瀕してゐるわけではない。そもそも、私は上記のこと自体が杞憂だと思ふ。で、以下この論調で23頁も進むので、引用はこのぐらゐにする。
 ところで、英語一極集中に警鐘を鳴らしてゐる人は、本当の意味での外国語を使ったことがない人だらう。でなければ、10ヶ国語を話せる語学の天才か?そもそも凡人にとって言語とは、一生に一言語しか習得できないやうに神様が脳細胞を設計してゐる。だから帝国主義的な押し付けがなければ、外国語なんてすぐ忘れてしまふ。大体、アメリカ合衆国に住んでゐながら、英語が喋れない移民も数千万人単位でゐる。今後、中国やインドが人口的にも経済的にも世界的に影響力を持つやうになるだらう。さうなったとき彼らはいつまでも英語で商売を続けると思ふか?多分、現地語に切り替へてくるだらう。