ローマ字の外来音拡張を分類

(2023-09-06) (現カナ)

 内閣訓令の『外来語の表記*1』に現れる外来音に対して、どのような拡張が行われているかまとめてみる。43個が定められ、それぞれ行ごとに並べると次のようになる。

  • イェ、ウィ、ウェ、ウォ
  • ヴ、ヴァ、ヴィ、ヴェ、ヴォ、ヴュ、ヴョ
  • キェ、クァ、クィ、クェ、クォ
  • グァ、グィ、グェ、グォ
  • シェ、スィ
  • ジェ、ズィ
  • チェ、ツァ、ツィ、ツェ、ツォ、ティ、テュ、トゥ
  • ディ、デュ、ドゥ
  • ニェ
  • ヒェ、ファ、フィ、フェ、フォ、フュ、フョ

(1) 基本規則

 外来音を表すための基本規則は、開拗音(イ段に小書きのヤ行)には「y」を間に挟み、合拗音(ウ段に小書きのワア行)には「w」を間に挟む形になる。ヘボン式では、一部「sh, j, ch, ts, f」に母音字を続ける形で表すこともある。

(2) 開拗音

イェ キェ シェ ジェ チェ ニェ ヒェ
日本式 ye kye sye zye tye nye hye
訓令式
ヘボン she je che

 外来音に現れるのは小書きの「ェ」のみである。子音字に「ye」を続ける形で表す。ヘボン式のみ「sh, j, ch」に「e」を続ける形で表す場合がある。

(3) 合拗音

クィ クェ クォ グィ グェ グォ
日本式 kwi kwe kwo gwi gwe gwo
訓令式
ヘボン

 すべての方式で「kw, gw」に母音字を続ける形で表す。

ツァ ツィ ツェ ツォ
日本式 twa twi twe two
訓令式
ヘボン tsa tsi tse tso

 日本式と訓令式は「tw」に母音字を続ける形で表し、ヘボン式は「ts」に母音字を続ける形で表す。

ファ フィ フェ フォ フュ フョ
日本式 hwa hwi hwe hwo hwyu hwyo
訓令式
ヘボン fa fi fe fo fyu fyo

 日本式と訓令式は「hw」に母音字を続ける形で表し、ヘボン式は「f」に母音字を続ける形で表す。なお、日本式と訓令式では、「フュ、フョ」に「hwy」を使い、半母音字が複数並ぶ形になる。

ウィ ウェ ウォ クァ グァ スィ ズィ
日本式 クヮ グヮ swi zwi
訓令式 wi we (wo) (kwa) (gwa)
ヘボン (si) (zi)

 形式的には合拗音で表すことができるが、日本式では歴史的仮名遣いで使われる仮名「ヰ、ヱ、ヲ、クヮ、グヮ」と同じ形を持つものが現れる。この制約を外せば、すべての方式で「wi, we, wo, kwa, gwa」を使うことができる。また、「スィ、ズィ」をすべての方式で合拗音の形「swi, zwi」で表しても問題ないのだが、ヘボン式では「si, zi」を使うこともできる。ただし、この形は訓令式では「シ、ジ」に使われるので、慎重に扱う必要がある。
 なお、キーボードのローマ字入力*2では、「whi(ウィ)、whe(ウェ)、who(ウォ)」、「wyi(ヰ)、wye(ヱ)、wo(ヲ)」のように当てはめることで、双方の混同を避けている。「wi, we」は、必要に応じて「ウィ、ウェ」と「ヰ、ヱ」を切り替える。

(4) その他の拗音

ティ テュ トゥ ディ デュ ドゥ
日本式 t'i t'yu t'u d'i d'yu d'u
訓令式 (di) (dyu) (du)
ヘボン (ti) (tyu) (tu)

 外来音には、開拗音、合拗音で表せない拗音がある。仮にエ段拗音、オ段拗音と呼ぶ。日本式では「チ、チュ、ツ、ヂ、ヂュ、ヅ」と異なる読みにするために、子音字の後ろに「'」を添えることがある。訓令式も同様だが、訓令式では「ヂ、ヂュ、ヅ」を「zi, zyu, zu」で表すので、「di, dyu, du」を外来音のために使うことができる。さらにヘボン式では「ti, tyu, tu」も外来音に使えるが、訓令式の「チ、チュ、ツ」と同じ形なので、慎重に扱う必要がある。
 なお、キーボードのローマ字入力では、「thi(ティ)、thu(テュ)、 twu(トゥ)、dhi(ディ)、dhu(デュ)、dwu(ドゥ)」のように当てはめることで、双方の混同を避けている。
 一部のローマ字流派では、エ段拗音に半母音字「j」を、オ段拗音に半母音字「v」を定めて、「tji(ティ)、tju(テュ)、 tvu(トゥ)、dji(ディ)、dju(デュ)、dvu(ドゥ)」と表す提案が行われている。他の事例では、99式*3で、合拗音用の「tw, dw, hw」をそれぞれトァ行、ドァ行、ホァ行に使うことで「twu(トゥ)、dwu(ドゥ)」と表し、本来の合拗音、ツァ行とファ行にそれぞれ「ts, f」を当てはめている。

(5) 新規音素

ヴァ ヴィ ヴェ ヴォ ヴュ ヴョ
日本式 vu va vi ve vo vyu vyo
訓令式
ヘボン

 日本語話者が「v」を音素として「b」と話し分け、聞き分けられるかの議論は脇に置き、ローマ字で表すのであれば「v」を使うことになる。これはどの方式でも同じである。「v」の存在を認めず、「b」に置き換えるローマ字流派もある。