現代假名遣ひに忍び込んだスリーパー

先日の記事の續きだが、現代假名遣ひに忍び込んだスリーパーとはオ段長音を「う」で表記することであらう。また、本來ならエ段長音として扱ふべき「えい」の温存も似たやうな性格だ。こちらは、發音の差異があるといふことで表音主義者を納得させてゐる。

逆に、「オ段長音は『お』を續けるべきであつた」といふ松坂氏の示唆は核心を突いてゐる。松坂氏がどこまで自覺してゐたか分からないが、表音主義者であれば、オ段長音に「う」を殘したことについて本能的に不吉なものを感じ取つたであらう。假に「お」で長音を表記することになつてゐれば、正假名遣ひの復活は相當に苦しかつた。

實際、現代假名遣ひと正假名遣ひの間に、二拍の連續で一度に置換が必要になる一般則はない。全て一拍單位で置換可能である。正假名遣ひ批判者が良く例に出す「ちょう」→「てふ」であるが、これさへも、「ちょう」→「てう」→「てふ」と段階的に復元することができる。「ちょ・う」と續くときの「ちょ」は正假名遣ひでは「ちや」「ちよ」「て」の三通りが考へられ、「う」そのものは「う」と「ふ」の二通りになる。

また、四つ假名の使ひ分けもスリーパーの一つと言へよう。四つ假名の使ひ分けを眞剣に習得しようとすればするほど、現代假名遣ひの矛盾に突き當たつてしまひ、正假名遣ひへの關心を引いてしまふ。正假名遣ひの息の根を止めるには、「ぢ」「づ」を全廢すべきであつただらう。

結論として、現代假名遣ひは正假名遣ひの骨骼を殘したまま、外見を表音的に塗り直したと見なしてよいであらう。