神との契約

 ここ暫らくキリスト教のことで遣り取りが續いてゐるやうだ。キリスト教の原則として次の二點を押さへておくと、歐米人の考へが理解しやすい。特にアメリカに多い教條的ファンダメンタリストの價値觀を理解するのに役立つ。

  • (1)人命は神の所有物
  • (2)結婚は神との契約

 殺人は(1)に違反してゐる。實は殺人同樣に自殺も罪が大きいのである。他人の命であらうが、自分の命であらうが、すべて神の所有物なので、それを神の許可を受けずに抹殺することは神への冒涜になる。ちなみに、最近のキリスト教では受精の瞬間が命の始まりだと定義してゐるので、中絶も同樣に罪である。離婚は(2)に違反してゐる。神父さんの前で、誓ひの言葉を述べる相手は配偶者ではなく神である。だから、離婚も神の許可を得ずにすることはできない。神の許可といっても(1)も(2)も、相手がキリスト教徒である限り許可はありえないので、殺人(自殺、中絶も含む)と離婚はキリスト教では神への冒涜行爲とされてゐる。
 最近、米大統領選で舌戰が繰り廣げられてをり、キリスト教の價値觀に關するテーマも多い。日本人にとっては失言でもアメリカ人にとってはどうでもよい問題もあり、逆もある。前者の代表例は進化論であらう。日本で進化論を否定する人がゐれば、その人の教育レベルを疑はれるが、アメリカでは、一流の科學者が進化論を否定しても問題はない。進化論への信條と學問の業績は關係ない。もちろん、專門分野によっては内心を隱す必要がある。それでも、DNA學者が進化論を内心で否定してゐても矛盾はしない。後者の代表例は、中絶や離婚問題であらう。日本では法律の有無だけしか價値判斷がない。キリスト教徒から見れば日本人は野蠻人なのかもしれない。法律がなければ猿なみの性倫理しかないのである。少年法によって法律による罰則が少ない女子高生の性倫理など、アメリカの女子高生から見れば猿と大差ないであらう。
 現在、話題の共和黨副大統領候補サラ・ペイリン女史が正にファンダメンタリストである。彼女の言動を見て、日本人は知的水準を疑ったり問題發言だと思ったりするが、アメリカでは全然問題にならない。アメリカの主婦層にとっては彼女の考へのはうが主流だ。