語源主義

 正仮名遣ひの根本原理は語源主義だ。ただし、語源を遡れないやうな新出単語には、表音的な表記を採用することになる。しかし、一度、その単語の表記が定着したら、継続性を尊重する。
 例へば、「飲ンジャオー」といふ表現がある。この言葉の語源は「飲んでしまはう」だ。語尾の部分は、ハ行四段活用の推量意思表現なので、「飲ンジャはう」と書くことになる。ここで、同様の表現として「食べちゃはう」がある。これは、「食べてしまはう」が約まり「〜てしま〜」→「〜ちゃ〜」となった表現だ。同様に、「〜でしま〜」→「〜ぢゃ〜」と解釈するのが自然だ。従って、「飲ンジャオー」は「飲んぢゃはう」と書く。
 一方、「来ヨー(こヨー)」は、語源をたどるのが難しい。

  • 四段「付かむ」→「付かん」→「付かう」
  • サ変「〜せむ」→「〜せん」→「〜せう」→「?」→「〜しヨー」
  • 下一「付けむ」→「付けん」→「付けう」→「?」→「付けヨー」
  • 上一「尽きむ」→「尽きん」→「尽きう」→「?」→「尽きヨー」
  • カ変「〜来む」→「〜来ん」→「〜来う」→「?」→「〜来ヨー」

 どうやら、「えう」→「ヨー」といふ変化に関係がありさうだが、それは、サ変や下一段には多少関係あるが、上一段では、音韻変化とは少し違ふし、カ変に至っては、音韻変化に従ふと「こむ」→「こう」で完結するはずが、わざわざ「こヨー」といふ変化を起こした。これは、「ヨー」といふ新しい助動詞が出現したと解釈するのが自然だ。だから、先人は、この表現が出現したときの読みを尊重して「よう」と定めた。「来ヨー」も「来よう」と書くことになる。