(2020/01/16)
字音仮名遣ひは漢字音韻学の研究により明治時代に規範として使はれた教科書といくつかの差異が出てきました。ただし、このブログでは運用上新たに区別が必要となるものは取り入れてゐません。具体例をここで示します。差異についての詳細は、Wikipedia の「字音仮名遣*1」を読んでください。
「スヰ」→「スイ」
「スヰ」「ズヰ」「ツヰ」「ユヰ」「ルヰ」は「スイ」「ズイ」「ツイ」「ユイ」「ルイ」が正しいとされてゐます。「スヰ」を「スイ」と「スヰ」の二通りに書き分けるやうな差異ではなく、機械的に置き換へられ、ここでは後者の説に従ってゐます。
「ハウ」→「ホウ」
唇音で始まる開口音の一部には、合口音だったものがあります。ただ、これにより新たな字音が作られるわけでなく、個別の漢字が新説で字音を変へられるだけなので、学説に従ひ、一部の漢字を「ハウ」「バウ」「マウ」から「ホウ」「ボウ」「モウ」に変へてゐます。
「キ」→「クヰ」
「クヮ」「グヮ」だけでなく、「クヰ」「グヰ」「クヱ」「グヱ」といふ合拗音を使ふ説です。確かに古典にはこれらの合拗音が存在してゐた証拠はありますが、これは新たな字音の定義であり、「キ」「ギ」「ケ」「ゲ」との区別が必要になります。字音仮名遣ひの難易度が上がるので、このブログでは振り仮名の対象にしません。
「ン」→「ム」
ム韻尾は確実に存在してゐたのですが、ン韻尾とム韻尾との区別を新たに取り入れると、記憶が必要な読みが膨大な数になり、字音仮名遣ひの難易度が更に上がります。また、「ム」を「ン」と読ませることは一部の助動詞を除き一般的でなく、書くだけでなく読む方にも新しい規則を作り出すことになってしまひます。したがって、このブログでは振り仮名の対象にしません。
「ウ」→「ŋ」
イ韻尾とウ韻尾には鼻音「ŋ」もしくは鼻母音「ĩ」「ũ」だったものがあります。例へば、北京「ペイチン」、上海「シャンハイ」の字音はそれぞれ「ホクケイ」「シャウカイ」であり、当時も「イ」と「ウ」の一部は鼻音「ŋ」だったのですが、当時の日本語に鼻音「ŋ」を正確に表す仮名がなく、似てゐる読みとして「イ」「ウ」を当てはめたといふ事情があります。今の日本語でも事情は変はりません。したがって、学術的に興味深くても、このブログでは振り仮名の対象になりえません。