ジャイアント・インパクト

ジャイアント・インパクトは普通の事件
http://www.astroarts.co.jp/news/1999/01/990128NAO235/index-j.shtml

The Origin of the Moon Home Page
http://yso.mtk.nao.ac.jp/~kokubo/moon/kit/index.html

ラグランジュ
http://home.catv.ne.jp/dd/pub/lag.html

土星の衛星と環
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9C%9F%E6%98%9F%E3%81%AE%E8%A1%9B%E6%98%9F%E3%81%A8%E7%92%B0

月の起源として有力な説、ジャイアント・インパクト説について考察してみる。(以下、大衝突と呼ぶ。)
大衝突がごく普通に起こりうる事象であり、大衝突のあとに、急速に破片が結集して月に成長するのも理解できる。しかし、一つ分からないことがある。それは、なぜ大衝突が地球の自転速度を速める方向に働いたかである。それは50%の確率だつたといふのでは、科学としてあまりにもお粗末である。

まづ、大衝突の相手である火星サイズの惑星について考察する。(以後、原始月と呼ぶ。)小惑星ならともかく、原始月が成長するためには、小惑星帯よりも内側の領域でないと不可能である。ましてカイパーベルトから来たなんて悪い冗談である。また、火星サイズにまで成長するには、どうしても安定した円軌道を公転する必要がある。そのやうな場所は、水星・金星・地球・火星といふ密集地帯に確保できない。しかし、辛うじて場所を確保するなら、それは、各惑星のラグランジュ点であらう。しかも後で地球に衝突するのであるから、それは地球のラグランジュ点であつた可能性が高い。

ラグランジュ点は5つあるが、大規模な天体が存在するためには、地球と太陽を底辺とした正3角形の頂点にあたるL4とL5しかない。L1,L2はとても球形の天体が存在できるやうな場所ではないし、L3は大天体が長期間留まれる場所ではない。地球からみて進行方向がL4で逆がL5であるが、地球のはうが質量が大きいことから、原始月は地球を後追ひするL5にゐた可能性が高い。太陽を中心とした正6角形を思ひ浮かべると、地球が塵を集める空間は正6角形のうち5辺、原始月は1辺になる。単純に考へても、地球のはうが原始月よりも5倍大きく成長する。これは地球の10%のサイズと推測される原始月の大きさを十分説明できる。

さて、この原始月は、丁度、地球の後方を60度離れた位置から、地球と同じ公転周期で太陽を周回し、しばらくは安定して存在してゐた。この原始月が地球と衝突するためには、L5から外れ、地球に追突するか、追突されるかのどちらかである。後方にある原始月が、地球に追ひ付かれるとは考へづらいし、力学的にL5を外れたものが、円周の300度分を地球に追ひ付かれるまで安定してその軌道に留まつてゐたとは思へない。となると、この原始月は地球に後方から追突したのであらう。

地球に追突するためには、地球より短い公転周期、つまり太陽に近い軌道を持つ必要がある。この軌道への移動を説明することは困難ではない。それは、たまたま原始月が金星と大接近したときに、木星の位置などの条件で、太陽側に引つ張られたのであらう。かうして、地球の少し内側を回り、地球に接近する条件が整つた。

ここで、地球の自転速度を速めるためには、地球の右後方から衝突する必要がある。車の運転に例へると、運転手からみて、左回転のスピンがかかり、自転が加速される。ところが、原始月が地球の内側にゐるといふことは、そのままの軌道では、地球の左後方から衝突してしまひ、事実とは逆の結果になる。

これは、ニュートンの法則を使ひ、コンピュータでシミュレーション計算をすれば予測できるであらうが、さすがに私にはその余力はない。かういふ場合、類似例を探す方法がある。実は太陽系に類似例がある。それは、土星の衛星ヤヌスとエピメテウスである。もちろん、これらの衛星が今すぐ衝突することはない。これらの衛星の興味深いところは、片方が一方よりも少し内側の軌道を回り、徐々に追ひ付いたあとに、大接近時に軌道を交換して、今度は追ひ付かれたはうが、内側の軌道に引つ張られ、追ひかける側に回る。さうやつて半永久的に追ひつ追はれつしてゐる。

地球と原始月もこれと同様の力学関係にあつたと思はれる。このやうな位置関係の場合、原始月は地球に追ひ付くに連れて、地球の引力で加速し、遠心力から軌道を外側に変へ、地球の右後方から追ひ越すことになる。逆に、地球はその影響で軌道が内側に寄り、公転周期を短縮し、逃げていくことになる。これが成功すれば衝突を免れ軌道を交換できたが、事実は、原始月は地球の右後方から表面をかすめるやうに追突し、その後は、かのジャイアント・インパクトになつたのであらう。地球は原始月の公転エネルギーを自転エネルギーに転換し高速回転を始め、月は破片から急速に成長した。

謎が全て解けたやうな気がする。