きのふの続きだが、豊富な活用形を整備してゐる動詞に対して、丁寧の助動詞や形容詞は活用形の整備が不十分である。不規則で慣用的な活用で間に合はせてをり、日本語教育でも説明が困難な部分でもある。特に「ありません」系列は、否定の助動詞「ぬ」の撥音便を使ってをり、終止形しか存在しないので接続が不便である。また、一度、丁寧の表現を使った場合、後続の助動詞にも丁寧の意味合ひを続けざるを得ず、「あり・ません・でした・でせう」などの多重丁寧表現に落ち入りやすい。多重丁寧を緩和するために「あり・ません・でしたらう」などと表現すると、丁寧の重みが減じてしまふ。一部、「あり・ません・でせう」は「あり・ます・まい」と言ひ換へが可能だが、一般的とは言へない。
現在の日本語では、「ありません」系列が正式表現で、「ないです」系列が俗表現とされてゐる。正規の丁寧表現を使ひこなすには、不規則な慣用表現を運用できねばならぬといふ意味で、語源的にも理念的にも「京都的」な世界である。
現在__ | あり・ません | ない・です |
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現在推量 | あり・ません・でせう | ない・でせう |
過去__ | あり・ません・でした | なかった・です |
過去推量 | あり・ません・でした・でせう | なかった・でせう |