犬が吠える

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  • 赤い帽子をかぶった男が木の下に立っていた。
  • 赤い帽子をかぶった男は、木の下に立っていた。

 英語では、上の文は、"A man with a red hat was standing under the tree." と訳しますが、下は、最初の "A" の代わりに "The" を使って "The man with a red hat was standing under the tree." とすればよいでしょう。

 うーん、未だにこの古い学説(仮説?)を紹介するとは。「が」「は」と「a」「the」は因果関係はない。「A whale is a mammal.」の自然な日本語訳は「鯨は哺乳類だ」のやうに「は」を使ふ。例文を次のやうに変へてみよう。

  • (1) 赤い帽子をかぶった(ある)男が木の下に立ってゐた。
  • (2) 赤い帽子をかぶった(その)男が木の下に立ってゐた。
  • (1) A man with a red hat was standing under the tree.
  • (2) The man with a red hat was standing under the tree.

となり、「が」を使ってゐても、「ある」と「その」がついたことで、「a」と「the」が決定された。

ところで、

  • 犬が吠える。(A dog barks.)か(The dog barks.)
  • 犬は吠える。(A dog barks.)か(The dog barks.)
  • (ある)犬が吠える。(A dog barks.)
  • (その)犬が吠える。(The dog barks.)
  • (その)犬は吠える。(The dog barks.)

と、ここでも「a」と「the」の決定権は、「が」と「は」よりも「ある」と「その」を補完して文脈上ふさはしいものになる。では、

  • (ある)犬は吠える。

だが、これでは日本語として文脈依存になり他の補完文が必要だ。単体として文章にするなら「犬とは吠える」と考へると分かりやすい。となると「A dog barks」か「Dogs bark.」だ。これは、「鯨とは哺乳類だ」に対する「A whale is a mammal.」や「Whales are mammals.」に通ずるものがある。

 と書いたけど、文法に関する記述にト印が多いといふわけではない。