特集「99式ローマ字」: 定義の再記述

(2018/08/18)

 99式ローマ字*1は、ローマ字を大きく変革しようとしたものでなく、訓令定義から字上符を回避して、パソコン時代のローマ字情報交換を容易にして、ローマ字を普及させるための方式です。
 ところが、あまりにも細かく原理原則を例示しすぎたために、枝葉末節の部分で批判を受けて、不当な評価を受けてゐるやうな気がします。次の要点を押さへて、定義を再記述します。

  • 読者がまづ知りたいのは、既存方式との差分です。したがって、訓令定義との比較から始めるべきです。
  • 表は視覚的に最も注目され、最も批判を受けやすい部分なので、無駄な情報は入れるべきではありません。特に、付録の表は、方式が複雑であるといふ印象を与へ、逆効果でした。一般読者が興味を持つのは、文科省の「外来語の表記」で提示された特殊音であり、それ以外の特殊音をわざわざ表で紹介する必要はありません。箇条書きでつづりの生成規則を紹介してゐれば、使ひたい人はその規則を熟読して使ふでせうし、そもそも「イィ」とか「スァ」とか実際に使はれるとは思へません。
  • 特殊音に架空の「ヅァ」行を持ち出して、表音式なら「zw」、翻字式なら「dz」などといふ記述は混乱に拍車を掛けます。そもそも「ヅァ」の存在自体が疑問ですし、存在しても読み方が確定しません。であれば、表音式は不要で、あへて定義するなら翻字式だけで十分です。
  • 翻字を前面に出したために、助詞の表記に統一性がないとの批判を受けてしまひました。99式の最大の目的が、パソコンで簡単に入力できない「ô」のやうな字上符の回避なので、その回避のために翻字を利用してゐるといふべきです。99式は完全翻字式ローマ字を目指したものではありません。

99式ローマ字の定義

 99式は訓令定義に基づき、パソコンでは入力が容易でない字上符を使用せずに、ローマ字で情報交換を行ふために設計された方式である。なほ、本稿は、片仮名で例示するが、平仮名にも同様の規則を適用する。

訓令第1表との関係

 訓令定義*2の第1表に含まれるつづりはそのまま使用する。括弧内は重出を示す。

ア列 イ列 ウ列 エ列 オ列
ア行 a i u e o
カ行 ka ki ku ke ko kya kyu kyo
サ行 sa si su se so sya syu syo
タ行 ta ti tu te to tya tyu tyo
ナ行 na ni nu ne no nya nyu nyo
ハ行 ha hi hu he ho hya hyu hyo
マ行 ma mi mu me mo mya myu myo
ヤ行 ya yu yo
ラ行 ra ri ru re ro rya ryu ryo
ワ行 wa (i) (e) (o)
ガ行 ga gi gu ge go gya gyu gyo
ザ行 za zi zu ze zo zya zyu zyo
ダ行 da (zi) (zu) de do (zya) (zyu) (zyo)
バ行 ba bi bu be bo bya byu byo
パ行 pa pi pu pe po pya pyu pyo

特殊音の定義

  • 前提として、既に訓令第1表に定義が存在してゐるつづりは、そちらを優先する。
    • 例「ya」は「イャ」でなく「ヤ」
  • 「イヴキギシジチヂテデニヒビピフミリ」に「ャィュェョ」が後続するときは、「y vy ky gy sy zy ty dy tj dj ny hy by py fy my ry」と「a i u e o」を組み合はせる。
    • ただし、「vyi, vye, fyi, fye」の組み合はせは定義から除外する。
  • 「ウヴクグスズツヅトドヌフブプホムル」に「ァィゥェォ」が後続するときは、「w v kw gw sw zw ts dz tw dw nw f bw pw hw mw rw」と「a i u e o」を組み合はせる。
    • ただし、「vu」は、「ヴゥ」でななく「ヴ」を示す。

 上記の規則から外来語の表記*3で提示されてゐる43個の特殊音は次のやうにつづる。

wi we wo ye
vu va vi ve vo vyu vyo
kwa kwi kwe kwo kye
gwa gwi gwe gwo
swi sye
zwi zye
tsa tsi tse tso tye
tji tju twu
dji dju dwu
nye
fa fi fe fo fyu fyo hye

撥音、促音、長音

  • 撥音には「n」を使用する。例「アン」→「an」、「アンマ」→「anma」
    • 「a,i,u,e,o,y,w」の前では「n'」を使用する。例「アンイ」→「an'i」
  • 促音は直後の英字を重ねる。例「アッタ」→「atta」
  • 長音には「â î û ê ô」のやうな字上符「^」は使用しない。
    • 仮名遣ひどほりに翻字する。例「オウ」→「ou」、「オオ」→「oo」
    • 長音符「ー」は直前の英字を重ねる。例「オー」→「oo」

翻字用の定義

ヂャ ヂュ ヂョ
di du dya dyu dyo
wi we wo
  • 「wi we wo」を「ヰヱヲ」と解釈するか「ウィウェウォ」と解釈するかは文脈に依存する。
  • 助詞「は」「へ」「を」は、通常「wa e o」とつづるが、厳密翻字では「ha he wo」とつづる。