Wikipedia の酷い語幹解説

 こちらのコメント欄が盛り上がってゐるので、語幹について学校文法で定義された通説を書くと、さらなる質問が来た。答へは手元の辞書を見れば分かるので、私が断片を答へるよりも、辞書を見た方が誤解を招かなくて済むと思ふ。それも不親切なので、ネット上でまとめられた文書がないか探してみた。まづWikipedia を見た。

 これは酷い。酷すぎる。Wikibedia にはたまに誤謬が存在するが、これほど酷い記述は初めて見た。

形態論的には動詞は音素レベルまで分解して考えられ、動詞には子音語幹動詞と母音語幹動詞に分けられる。

 これは良い。確かに学校文法では仮名文字までの分析なので、別の角度から分析するために日本語文法ではローマ字による音素分析も行はれる。新たな知見はあるらしいが、私個人の見解だと、国文法の知識をしっかり知っておけば、それほど驚くやうな知見はない。例へば、「かく」の活用には「か」だけでなく[k]といふ共通部も存在すると言っても、それは国文法では「カ行四段」の「カ行」で既に暗示されてゐる。

なお学校文法でいう-a, -i, -u を伴った語幹は語基と呼ばれる。

 これで、この執筆者が在日朝鮮人だと分かる。私は朝鮮語もたまに扱ふので語基の定義は知ってゐるが、語基を日本語文法で使ふ人は一部の朝鮮かぶれの我流教育者だけだ。主流ではこんな定義はしない。よもやと思って「語基 - Wikipedia」を見ると、これも醜かった。

母音語幹動詞はいわゆる上一段活用・下一段活用・上二段活用・下二段活用であり、語幹が/i/か/e/で終わるものとして分析される。

 上二段活用と下二段活用はローマ字による音素分析では子音語幹に分類されるんだが、この執筆者は二段活用の具体的な変化を本当に知ってゐるのか?

語尾が「しい」で終わっている形容詞は「し」までが語幹だが、「しい」をひらがなでかく。

 文法の解説において「シク活用」に言及しないのは非常に奇異なことだ。まさかシク活用を知らないのではないか?通時的にシク活用に言及すれば疑問点は解決するのに、単に現状を紹介するだけの記述になってゐるのはなぜだ。

国文法でいう助動詞には、語幹のあるものと、ないものがある。

 中途半端な独自の定義で語幹を分類しないで欲しい。そもそもこの分類表に何の意味があるのだらう。日本語教育で主流の共時的な文法では、一段活用の場合、不変部は全て語幹に含めるので「せる」「れる」も語幹を持つことになる。「せる」「れる」に語幹がないとすれば、それは学校文法の定義であり、学校文法の定義ではそもそも助動詞に語幹は存在しない。全てが活用語尾である。