復古仮名遣ひと正仮名遣ひの違ひ

  • 歴假名の定義は「平安時代中期以前の文獻用例に從ふ」。

 野嵜さんが引用した高崎さんの記事だけど、高崎さんの語彙集は重宝するものの、この部分に関してはどうしても馴染めない。結局、高崎さんは復古仮名遣ひに囚はれてゐるだけぢゃないかと?
 正しくは

  • 正仮名遣ひは、語源意識を元に最初に定着した表記に従ふ。

だと思ふ。語源意識がない全くの新語の場合は、そのときそのときの表音的表記に従ふのが正しいのであって、「平安時代」なんて絶対的な時代を指定するから、現代仮名遣ひ擁護派に痛くもない腹を探られるし、基準になる時代を特定した時点で「昭和20年といふ時代」を特定した現代仮名遣ひと同じレベルにまで貶めてゐる。
 正仮名遣ひとは時代を超越した仮名遣ひであり、たまたま、平安時代に仮名といふ表音文字が発明され、その時点で、多くの大和言葉の表記が定着しただけで、平安時代に絶対的な意味はない。助動詞「よう」は江戸時代に出現したから「やう」や「えう」でなく「よう」と表記するし、形容詞「なうい」は、「なうい」であって、復古調で「なふい」などと書くやうなことはしない。
 それでは、一度定着したものを変へることは出来ないか?否。学術研究により、語源意識が再定義されれば可能だと思ふ。「用ひず」がその代表例だ。江戸時代では「用ひず」はハ行上二段活用「用ふ」に否定の助動詞「ず」が接続したと考へられてゐた。「ワ行上二段動詞」が存在しない以上、活用語尾はハ行で表記する他ない。ところが、「用ふ」は単独の動詞ではなく、「持ち・ゐる」といふ複合動詞が語源であるといふ意識が定着したので、「用ゐる」はワ行上一段活用として再定義され、「用ひず」は「用ゐず」と表記されるやうになった。