「ヶ」が片仮名パートにある矛盾点

 現場において、このやうな苦労があるのは非常に分かる。しかし、「ヶ」は本来漢字であり、片仮名の位置に符号化してしまったのがボタンの掛け違ひであった。「ヶ」と似たやうな成立過程を持つ「匁」も立派に漢字として扱はれてゐる。そして「ケ」といふ形状に対しても、片仮名だけでなく漢字としての符号値も与へるべきであった。「A」「Α」「А」、これらの3つの「A」は、それぞれ、ラテン文字ギリシャ文字キリル文字であるが、見かけ上は区別できないにも関らず、違ふ符号値を持ってゐる。
 芝野さんは、言ふまでもなく、文字コードの専門家である。さう言ふ事例を熟知してゐるにも関らず、形状による区別を強調するのは、JISX0213において、収録するための符号値が足りなかったといふ「本当の理由」をはぐらかしてゐるとも勘繰られかねない。その理屈で行くのなら片仮名の「ニ」と漢字の「二」を区別する必要はなかった。片仮名の「ニ」の場所に漢字の「二」を使用しても、読解の妨げにはならず、字源も同じであるからだ。「New York」を「ニューヨーク」と書かうが「二ューヨーク」と書かうが見た目では区別できない。