特集「訓令議事録」: 幻のローマ字記号「キャロン」

(2019/03/21)

 『Ro-mazi Bunko*1』の『第3次主査委員会報告*2』に「ši, ťi, ťu, ťya, ťyu, ťyo」といふ表記が出てきます。イメージスキャナーで読み取った画像のため、文字が潰れてゐるのですが、どうも字上符「キャロン*3」のやうに見えます。『臨時ローマ字調査会議事録(第13回)*4』を読んでみると、「ti」を「ティ」でなく「チ」と読ませるための補助記号として提案されたやうです。標準式派(ヘボン式派)は「ti」の読みを「チ」に奪はれたので、妥協策として提案したのでせう。
 ただ、日本式派は、「ti」は「チ」と読むのが原則であって、わざわざ「チ」と「ティ」の区別をするために、「チ」を「ťi」とつづることは日本式派の主張と異なります。一方、標準式派にとって、わざわざ書きづらい「ťi」よりも「chi」を使へば済むことなので、最終的に1937年内閣訓令*5には含まれなかったやうです。もし含まれてゐれば、「Hukušima」「Ťiba」のやうな地名がありえたわけです。

(2019/12/15)
 文化庁のサイト*6でキャロンの記述が確認できました。文言をそのまま引用します。

(1) 撥音ハスベテ n デアラハスコト
(2) 必要ノアル場合ニハ si, ti, tu, tya, tyu, tyo ヲ ši, ťi, ťu, ťya, ťyu, ťyo ノ如ク記スコトヲ得