ワア行五段活用

 よく現代假名遣ひの不合理な點を指摘する例として、ワア行五段活用なるものがあるが、個人的には、これを批判のネタに使ふのは、枝葉末節な氣がする。これは現代假名遣ひの缺點といふより、現代假名遣ひ用の五十音圖に設計ミスがあったといふことだらう。單純に

あいうえお
(中略)
らりるれろ
わいうえお

として、ワ行の「ゐ」「ゑ」「を」を全て表音文字から追ひ出してしまへば苦勞はなかった。さうすれば、ワ行五段活用として文法説明は全て解決した。それでは、「を」をどうするか、助詞「を」を表すための記號か漢字もどきとして處理しておけばよかった。
 もっとも、文法的な問題で言へば、文語文法自體、短歌を意識しすぎだと思ふ。短歌の表現は無視して論説文を主體に整備すれば、あれほどの助動詞や活用形のカオスはなかったかもしれない。なぜ、短歌が問題かといふと、過激な短縮表現が多いからだ。最近、携帶電話でメールを書く機會が増えたが、限られた文字數で書くとなると、「〜てゐる」は「〜てる」になるし、「〜といふ」も「〜つー」になる。かういふ元の形を復元できる短縮表現までいちいち助動詞にしてゐたら、口語文法もカオスになるであらう。31文字で表現する短歌の助動詞や活用形は元々さういふ性格のものだと思ったはうがいい。「カリ活用」や助動詞「り」などは單純に短縮表現として、文法事項から追ひ出したはうがすっきりするだらう。といふ意味で、正假名遣ひは支持しても、文語文法は支持できない部分がある。本來なら、文法は、古典專用に設計するのでなく、正假名遣ひで書かれたものであれば、文語、口語に限らず、もっと統一性の取れたものを考へるべきである。