正仮名遣ひの習得時間

以前、「一囘二十分? それを何回やったのかな?」と思って、『假名遣ちかみち』を買って読んだら「十回で終了」だと分った。で、そのまま指摘もせず忘れてゐたんだが、正仮名遣ひに注力にあのカンニングペーパーを読めば、1時間で正仮名遣ひを運用できるやうになるはずだ。とあるのを見て連想で思ひ出した。

 いや、私の数値は、正仮名遣ひの習得には1日も要らないよといふ意味なので、1時間といふ数値は適当だすよ。ところで、山田孝雄先生によると、20分×10回=200分だから、3時間20分。その差は文法の習得時間と考へれば、それほど間違った数値でないと思ふやうになった。正仮名遣ひの運用で大切なのは、文法知識と語源意識。仮名で書くしかない部分は活用語尾と助詞・助動詞なので、活用語尾の「ワイウエオジズ」さへ押さへれば、それでお仕舞ひ。助詞・助動詞の相違部分は、全部覚えても両手の指以下で済むはずだ。接続詞・指示詞は一般的に使用頻度が高いので、相違部分は忘れる間もなく使ひ続けて、すぐに覚えてしまふ。同様に形式名詞の「はず」「ゆゑ」「せゐ」も覚えてしまふ。ただし、接続詞・指示詞・形式名詞は漢字で書いて仮名遣ひを隠す手もあるので、優先順位は低い。最大の難関が、ハ行下一段活用とヤ行下一段活用の区別。覚えるべき動詞の数が20個以上あって半端でないし、使用頻度の少ない動詞もあるので忘れることも多い。これだけは、ときどき虎の巻を見ないと間違へてしまふ。と、ここまで書いて、文法用語がいっぱい出てきたけど、さういふ概念を理解するのに結構時間が掛かるので、1時間といふのは、中学・高校で居眠りぜずに文法の授業を受けたひと限定かな?

これまで指摘が無いのは、皆さん読んでないから? それとも読んだけど「指摘するほどのことでもない」と思ったとか。

 その両方ともかと。

 で、一連の書き込みで何が言ひたかったかといふと、己の教養をひけらかすために歴史的仮名遣ひを実践してゐる人には、正仮名遣ひが中学生でも運用できるものだと証明されると、自尊心が傷付くわけよ。だから、正仮名遣ひのサイトが増えると面白くないし、アンテナでそれらと同一視されるのが不愉快になる。そして、「いや、字音仮名遣ひも暗記してゐなければ、正しい歴史的仮名遣ひを理解したとは言へない。」「元々、歴史的仮名遣ひは古典を書くためのものだから、口語も対象にする正仮名遣ひは邪道である。」「字音仮名遣ひや文語文法を完璧に習得するまでは、自分は歴史的仮名遣ひでブログを書かない。」と自尊心の崩壊を防ぐために、ますます論理が飛躍して、周囲からは冷笑されるやうになる。
 個人でさういふポリシーでゐるのは自由だけど、正仮名遣ひに興味を持ち始めた人にさういふ誤解を与へて、参入障壁を高くしようとする魂胆が見え見えなので、「正仮名遣ひは1時間で習得できる」といふ真実を文書化する必要を感じたわけだ。私がやっても微々たる影響力しかないのは分かるけど、やらぬよりはマシといふレベルかな?
 やっぱり「かなづかい入門」といふ書籍が出てから、執拗に理論武装して正仮名遣ひを否定する輩が増えてきたのは確かだ。一方、正仮名遣ひのサイトも確実に増えてきてゐる。