特集「英米ローマ字規格」: 修正ヘボン式

(2018/09/02)
特集「英米ローマ字規格」

 英米ローマ字規格をまとめてゐるページ*1がありましたので、いくつか紹介します。
 まづ、「Japanese Kana romanization」に修正ヘボン式のPDFがあります。ローマ字ページで抜粋した内容を紹介してゐます。

 訓令定義との比較は次の通りです。

  • 同じもの
    • 訓令第2表のうち「ch, f, j, sh, ts」で始まるつづりは、第2表のものを優先的に用ゐる。ほかは第一表と同じである。
    • 撥音「ん」をすべて「n」でつづるのは、訓令定義と同じである。
    • 撥音「n」が「a, i, u, e, o, y」の前に来る場合は「'」を挿入することは、訓令定義と同じである。
  • 異なるもの
    • 促音「っ」は直後の子音字を重ねる。ただし、「ch」の前では「t」を使用する点は、訓令定義とは異なる。
    • 長音は母音字の上にマクロン「 ̄」をつける点は、訓令定義「^」とは異なる。イ段音の長音は「ii」を重ねる。マクロンが使用できないときの代用表記には言及がない。
  • 言及のないもの
    • 特殊音は44個定義されてゐるが、訓令定義では独自の拡張が認められてゐる。
    • 大文字と小文字の区別は詳細について言及なし。

 その他は、助詞の「は」「へ」は「wa」「e」とつづるやうに記述があります。助詞の「を」は訓令第1表と同じ扱ひです。撥音「ん」から、「n」と「m」の使ひ分けをなくしたのは、訓令定義に従ったものと思はれます。
 長音と非長音の違ひは、形態素といふ専門的な表現は使はずに、同じ母音が同一漢字で表現されるものを長音とし、異なる漢字で表現されるものを非長音と定義してゐます。非長音の場合、「o'o」のやうに「'」を挿入することにも言及してゐます。
 これは、外務省とその下部組織が説明するパスポートのつづり方よりも遥かに親切で、揺らぎがありません。「高遠(たか・とお)さん」の「とお」は長音ですし、「糸尾(いと・お)さん」の「とお」は非長音です。問題になるのは熟字訓で、「若生(わこう)さん」ですが、結局、現代仮名遣ひから独立した長音といふ概念自体を義務教育で教へないのですから、見解が完全に一致するわけがありません。
 最近はパスポート受理の現場でも長音の扱ひはかなり緩くなったと聞きます。名字は家族の同一性を保障するもなので、「佐藤(さとう)さん」を「SATOH」や「SATOU」とつづるのはかなり慎重な判断を求められますが、名前の方は、個人だけの問題なので、「太郎(たろう)さん」の「ろう」を長音ではなく、「ろ・う」といふ単音の並びだと強引に主張すると、「TAROU」でも受理してもらへるさうです。まして、キラキラ名みたいに、漢字から読みを類推できないものは、長音と単音の区別も本人の申請に従ふしかありません。
 結局、長音といふ、義務教育で定義を正確に教へてゐないものをローマ字に組み込んだこと自体がボタンの掛け違ひなのです。
 未だに「おう」は「オ・ウ」ではないと言ひ張る人がゐますが、小学校一年生の音読で、「おはよう」を「オ・ハ・ヨ・ウ」と読んで、読み直しを命じるやうな先生はゐないでせう。平仮名で「おはよう」と書き、「オ・ハ・ヨ・ウ」と読んで通じるものを、わざわざ「オ・ハ・ヨ・オ」と読み換へさせて、児童を混乱させる先生はゐません。一方、「ぼくは」を「ボ・ク・ハ」と読んだら、確実に、「ボ・ク・ワ」と読むやうに、読み直しを命じられるでせう。それが現代仮名遣ひ教育70年の現実です。