特集「1947年草稿ローマ字文の書き方」: 原文

(2020/02/24)


 訓令議事録を斜め読みしてゐたところ「ローマ字文の書き方」の草稿が見つかりました。つづり方も分ち書きも1947年にほぼ骨格が決まってゐたことになります。つづり方は、1954年に「ローマ字のつづり方*1」として訓令になりました。一方、分ち書きは訓令化の機運も盛り上がらず、草稿段階のままとなりました。貴重な資料なので、原文のままテキストデータとして記します。

ローマ字文の書き方 (昭和22年2月)

Ⅰつづり方

1 直音

a i u e o
イ(ヰ) エ(ヱ)
ka ki ku ke ko ga gi gu ge go
sa si su se so za zi zu ze zo
ジ(ヂ) ズ(ヅ)
ta ti tu te to da de do
na ni nu ne no
ha hi hu he ho ba bi bu be bo
ma mi mu me mo pa pi pu pe po
ya yu yo
ra ri ru re ro
wa

2 よう音(拗音)

kya kyu kyo gya gyu gyo
キャ キュ キョ ギャ ギュ ギョ
sya syu syo zya zyu zyo
シャ シュ ショ ジャ(ヂャ) ジュ(ヂュ) ジョ(ヂョ)
tya tyu tyo
チャ チュ チョ
nya nyu nyo
ニャ ニュ ニョ
hya hyu hyo bya byu byo
ヒャ ヒュ ヒョ ビャ ビュ ビョ
mya myu myo pya pyu pyo
ミャ ミュ ミョ ピャ ピュ ピョ
rya ryu ryo
リャ リュ リョ

〔備考1〕以上は、現代語で標準的と認められる音を、ローマ字で書きあらわす場合と、かなで書きあらわす場合とを対応して示したものである。
〔備考2〕次のようなつづり方も必要に応じて習わせる。
shi(シ)、chi(チ)、tsu(ツ)、fu(フ)、ji(ジ、ヂ)、sha(シャ)、shu(シュ)、sho(ショ)、cha(チャ)、chu(チュ)、cho(チョ)、ja(ジャ、ヂャ)、ju(ジュ、ヂュ)、jo(ジョ、ヂョ)、di(ヂ)、du(ヅ)、dya(ヂャ)、dyu(ヂュ)、dyo(ヂョ)、wo(ヲ、助詞「を」にかぎる)、kwa(クヮ)、gwa(グヮ)
〔備考2〕特殊な音の書きあらわし方については自由とする。

3 いわゆる長母音はその文字の上にやまがた「^」をつけてあらわすか、または母音字を重ねてあらわす。ただし、「ていねい」「命令」などの「エイ」は ei とする。

obâsan おばあさん nêsan ねえさん
Tôkyô 東京 ryôri 料理
kûki 空気 tyûi 注意
ôkii, ookii 大きい tiisai 小さい
teinei ていねい meirei 命令

4 はねる音は、すべて n であらわす。

sannin 三人 sinbun 新聞
denpô 電報 kantoku 監督
tenki 天気

〔注意〕はねる音をあらわす n の次にすぐに母音字又は y が続く場合には、n のあとに切るしるし「'」を入れる。

gen'in 原因 kin'yôbi 金曜日

5 つまる音は、次に来る子音字を重ねてあらわす。

Nippon 日本 gakkô 学校
kitte 切手 zassi 雑誌
ossyaru おっしゃる syuppatu 出発
tyotto ちょっと

ただし次のような場合にはアポストロフ「'」を使って示す。

  • "A'" to sakebu. 「あっ」とさけぶ

6 文の最初の単語や固有名詞やその他必要のある場合には、その語頭に大文字を用いる

  • Kyô wa kin'yôbi desu. きょうは金曜日です。
Tôkyô 東京 Huzisan 富士山

〔附記1〕外来語は国語音のつづり方に従って書く。

inki インキ naihu ナイフ
tabako たばこ ranpu ランプ

〔附記2〕外国語(地名・人名を含む。)のローマ字つづりは、原則として原語に従って書く。ただし日本語風に呼びならわした地名・人名は外来語なみにあつかう。

Ⅱ 分ち書きのし方

1 原則として単語はそれぞれ一続きに書き、他の単語から離して書く。

  • Suzusii kaze ga soyosoyo huku.
    • 涼しい風がそよそよ吹く。
  • Kyô wa watakusi no tanzyôbi desu.
    • きょうは私の誕生日です。
  • Kare wa eigo mo deki, sono ue Huransugo mo zyôzu da.
    • 彼は英語もでき、その上フランス語もじょうずだ。
  • Iya, sonna kimoti wa nai.
    • いや、そんな気持ちはない。

〔注意1〕いわゆる形容動詞と認められる語は、「だ」をはなして書く。

kirei da きれいだ zyôzu da じょうずだ

〔注意2〕複合語で一語としてまだ十分に熟していないものにはつなぎ「-」を入れる。

  • rigai-kankei 利害関係
  • hanasi-tuzukeru 話し続ける

ただし、一語として十分に熟したものには「-」を用いない。

hinoki ひのき amagasa あまがさ

〔注意3〕接頭語・接尾語は続けて書く。

otera massakini まっ先に
anatagata あなたがた ronriteki 論理
dorodarake どろだらけ

ただし、接頭語で上の語に続けて書くと、意味のまぎれやすい場合には、離して書く。

Hanako San 花子さん Tarô Kun 太郎
Itô-Zirô Sama 伊藤次郎様

〔注意4〕固有名詞は次のように書く。

NIppon Ginkô 日本銀行 Sumidagawa すみだ川
Sakurazima 桜島 Tôkyôwan 東京湾
Tôkyô-to 東京都 Tiba-ken 千葉県

2 助動詞は続けて書くのを原則とする。

kikaseru 聞かせる misaseru させる
yorokobareru 喜ばれる tasukerareru 助けられる
kakanai 書かない tabeyô たべよう
ikitai いきたい hanasimasu 話します
okita 起き moratta もらっ
yonda 読ん mimai まい
ikumai 行くまい

〔注意1〕助動詞「う」は接続する動詞・助動詞などによって、それぞれの行のオ段長音となる。

kakô 書こ sasô 差そ utô 打と
utaô 歌お yomô 読も urô 売ろ
kogô こご yobô 呼ぼ
desyô でしょ masyô ましょ

〔注意2〕助動詞「そうだ」「ようだ」は sô da、yô da のように、それぞれ「だ」を離して書く。
〔注意3〕助動詞「そうだ」は様子・有様などの意味をあらわすものは、「そう」を前の語に続けて書くが、伝え聞く意味をあらわすものは前の語から話して書く。(次項参照)

arisô da 有りそうだ aru sô da 有るそうだ
suzusisô da 涼しそうだ suzusii sô da 涼しいそうだ

3 助動詞のうちで「だ」「です」「らしい」「ようだ」および伝え聞く意味をあらわす場合の「そうだ」などは、離して書く。

  • Are wa Huzisan da.
    • あれは富士山
  • Huzisan wa utukusii yama desu.
    • 富士山は美しい山です
  • Mô minna kaetta yô da.
    • もうみんな帰ったようだ
  • Kon'ya wa ame ga huru rasii.
    • 今夜は雨が降るらしい
  • Kono hon wa Yamada Kun no rasii.
    • この本は山田君のらしい
  • Asoko wa taihen atui sô da.
    • あそこはたいへn暑いそうだ

〔注意〕接尾語の「らしい」は続けて書く。

  • Ano otoko wa itu made tattemo kodomorasii ne.
    • あの男はいつまでたっても子供らしいね。

4 助詞は、離して書くのを原則とする。

  • Kore wa watakusi no hon desu.
    • これ本です。
  • Koko wa, natu wa suzusii si, huyu wa atatakai.
    • ここ、夏涼しい、冬あたたかい。
  • Kare wa, natu demo huyu demo zyôbu da.
    • 、夏でもでもじょうぶだ。
  • Tenki ga kuzuerru na to omowaseru no ga kono kumo da.
    • 天気くずれる思わせるこの雲だ。

〔注意1〕助詞「は」「も」が助詞「に」「で」に重なった場合には続けて書く。

  • Ue niwa ue ga aru.
    • 上がある。
  • Dare nimo dekinai.
    • だれできない。
  • Tegami dewa osoku naru.
    • 手紙おそくなる。
  • Kiku dake demo yoi.
    • 聞くだけよい。

〔注意2〕接続の「と」は続けて書く。

  • Haru ni naruto, tubame ga kuru.
    • 春になる、つばめが来る。

〔注意3〕禁止の「な」は続けて書く。

  • Ikuna yo. 行くよ。

5 用言に附く助詞のうちで「ば」「ても」(「でも」)「て」(「で」)「ながら」「たり」(「だり」)などは続けて書く。

  • Yomeba, wakaru.
    • 読め分かる。
  • Mitemo wakarumai.
    • ても分るまい。
  • Kusuri o nondemo naoranakatta.
    • くすりをのんでもなおらなかった。
  • Dôxo mite kudasai.
    • どうぞ見下さい。
  • Ugokanaide kudasai.
    • 動かない下さい。
  • Nakinagara utatta.
    • 泣きながら歌った。
  • Kodomotati ga detari haittari site asonde iru.
    • 子供達が出たり入ったりして遊んいる。
  • Tondari hanetari suru.
    • とんだりはねたりする。

Ⅲ 符号の使い方

1 ローマ字文の中に用いる符号の主なものは、次のとおりである。

  • . とめ
  • , くぎり(コンマ)
  • ; おおくぎり(セミコロン)
  • : ふたつてん
  • ? といのしるし
  • ! つよめのしるし
  • ( ) かこ
  • [ ] かくがっこ
  • " " 引用のしるし
  • ' ' ひとえの引用のしるし
  • ぼう
  • - つなぎ
  • ' きるしるし(アポストロフ)
  • ^ やまがた

2 「.」は文の終わりに用いる。

  • Kyô wa ii tenki desu.
    • きょうはいい天気です。

〔注意〕「.」は、また略語の示す場合にも用いる。

3 「,」は、一つの文の中で、語句の切れ目に用いる。

  • Hai, sô desu. はい、そうです。
  • Amari tenki ga ii node, dekakete ikimasita.
    • あまり天気がいいので、でかけていきました。

4 「;」は「,」よりも大きな区分を示す場合に用いる。

  • Watakusi, anata, anokata; kore, sore, are; koko, soko, asoko nado wa mina daimeisi desu.
    • 私、あなた、あの方;これ、それ、あれ;ここ、そこ、あそこなどはみな代名詞です。

5 「:」は「;」で示す区分より意味の連絡のいっそう少ない区分を示す場合に用いる。

  • Kotowaza nimo iu: Saru mo ki kara otiru.
    • ことわざにもいう:さるも木から落ちる。

6 「?」は問いや疑いの文の終りに用いる。

  • Kore wa anata no desu ka?
    • これはあなたのですか。
  • Are wa nan darô?
    • あれはなんだろう。

7 「!」は、感動や命令の意味を特に強くあらわす必要のある場合に用いる。

  • Mâ, kire da koto!
    • まあ、きれいだこと
  • Hanako San, hayaku irassyai!
    • 花子さん、早くいらっしゃい。

8 「( )」「[ ]」は、説明のための語句や補いの語句をそえる場合になどに用いる。

  • Sensyû no nitiyôbi (3-gatu 17-niti), watakusi wa Yokohama e ikimasita.
    • 先週の日曜日(三月十七日)、わたくしは横浜へ行きました。
  • Kare wa sairen [no oto] ni bikkuri sita.
    • 彼はサイレン[の音]にびっくりした。

9 「" "」は語句を引用する場合や人のいうことばをそのままうつす場合などに用いる。

  • "Masao San, uguisu ga naite imasu yo," to itte, nêsan wa mado o akemasita.
    • 「正男さん、うぐいすがないていますよ。」といって、姉さんは窓をあけました。
  • Seisyo niwa, "Kami wa ai nari," to aru.
    • 聖書には、「神は愛なり」とある。

〔注意〕引用文の中にされに語句を引用する場合に、「' '」を用いることがある。

10 「–」は、説明の語句をそえる場合などに用いる。

  • Itiban atarasii yôhuku – koo aida tukutta bakari no o kite dekaketa.
    • いちば新しい洋風 – この間つくったばかりのを着てでかけた。

11 「-」は複合語で、まだ一語として十分に熟していない場合や、
一語が二行にまたがる時に、その語が次の表に続くことを示す場合などに用いる。

  • rigai-kankei 利害関係
  • hanasi-tuzukeru 話し続ける
  • Mukasi, mukasi, aru tokoro ni ozii-
    san to obâsan ga arimasita.
    • むかし、むかし、あるところにおじいさとおばさんがありました。

〔注意〕一語で二行にまたがる場合に、一つの音節の中途やはねる音の前では切らない。また、つまる音はかならず重なった字の間で切る。なお、切る場合に意味のとりやすいようにあつかう。

12 「'」は、はねる音 n とその次に来る母音字または y とを
切り離す必要のある場合に用いる。(Ⅰ.4 注意参照)

13 「^」は、母音字の上に附けて、その母音が長音であることを示す場合に用いる。(Ⅰ.3 参照